宅録研究通信 その2 ピアノの録音あれこれ

COLUMN

前回、ドラムやベースなどのバックトラックの制作環境について紹介しましたが、今回はピアノのレコーディングはどうしてるのかについてご紹介します。

バックトラックはほぼMIDIデータをプログラミングすることで作っていますが、ピアノは生の楽器を演奏し、マイクで録音しています。
マイクには大きく分けて2つの種類があり、よく会議室やライブハウスで見かけるのはダイナミックマイクと呼ばれているものです。一方、音楽のレコーディングでは、より高精度な音を記録できるコンデンサーマイクと呼ばれるものを使います。ただ、ダイナミックマイクよりも高価で壊れやすく、扱いに気を遣うので、ライブシーンで使うには向いていません。また、マイクの構造上、微弱な電源(ファンタム電源と言います)を供給してあげないと働かないので、その機能があるミキサーなどと組み合わせなければならないという欠点もあります。

左がダイナミックマイクの代表格、SHURE SM58 会社の会議室から世界中のライブシーンまでどこでも見かける、超がつくベストセラー。
右はコンデンサマイクAKG C214 今回のBeautiful Love 録音から少し上級モデルにチャレンジということで導入してみた。

マイキングをしていて改めて気づかされたのは、一つの楽器の「音色」というものは実は無限の種類を持つということです。一例としては演奏する環境とか、どの場所で聴いているかで全然聞こえる音色は違うのですね。楽器に耳を違づけて聴く音と、部屋の少し離れたところで聴く音、ホールの客席で聴く音はみな全然質が違うのです。単に音が大きい、小さいということではなくて、例えばバイオリンであれば、楽器のすぐそばで聴くと、いわゆるバイオリンらしいつややかな響きの他にも、弓が弦をこするノイズや指が指板を叩く音なども(そして演奏者の息遣いや洋服がこすれる音なども!)実際には演奏の一部として聞こえていることに気が付きます。
今どきのデジタルサンプリング音源では、そういった普段はあまり意識しないノイズや音色の変化を細かにシミュレーションする試みが進んでおり、そのおかげで、一昔前の無表情な音源とは比べ物にならないリアルさを表現できるようになっています。一方で、我々が演奏を聴く時には、そんなに楽器の至近距離で耳をそばだてるようなことは多くなく、演奏者から少し離れて、部屋の反響や全体のアンサンブルが程よくミックスされた音を聴くことがほとんどです。これはどちらがいい悪いという話ではなく、①至近距離での生々しい音成分、②程よく離れた距離でのまとまった音成分、両方の要素があり、どちらも大事だということです。

さて、ピアノの場合は高音から低音まで音域が広大で、単音のピアニッシモから多重和音のフォルテッシモまでダイナミクスの幅も大きい。一言にピアノの音と言っても、演奏シーンによって全く音色の表情は異なり、どんな音で録るのか、というのは千差万別の可能性があります。レコーディングエンジニアによっても様々に好みが分かれるところでしょう。
上記でお話しした①(至近距離)の音成分としては、ハンマーが打弦するときのコン・キンというようなノイズや、ダンパーペダルを踏んだ瞬間に全弦が解放されゴーッという地鳴りのような倍音ミックスが発生する音など、普段は意識をしない音が楽器の中では多く鳴っています。よって、そのようなリアルな音を拾うために、私の場合は打弦エリアのすぐ近くに2本の「近接マイク」を設置しています。(1本は低音側を狙い、1本は高音側を狙う)

近接マイク

近接マイクの録音サンプルがこちらです。

一方、普段はピアノの蓋の中に顔を突っ込んで音を聴くことはまずないはずで、ピアノらしい響きというのは全ての音が響板を介して楽器全体ででミックスされ、蓋(屋根)に反射して届いています。このようなやや離れた音(上記で②にあたる音)を録るため、より楽器から1.5mほど離れた位置に「遠隔マイク」を2本設置しています。

左側の2本のペンシル型コンデンサマイクが遠隔マイク。RODE NT5

遠隔マイクの録音サンプルがこちらです。

普通に演奏を聴いている状況を考えれば、この遠隔マイクの音像が普段聴いている音に近いはずなのですが、録音作品としてはいささか音がまとまりすぎていて迫力不足に感じます。より解像度が高く広がり感のある音にしたいところです。
かなり試行錯誤を繰り返しましたが、今のところの私の結論は、上記のセッティングで近接と遠隔を同じくらいの音圧でミックスすると、かなりバランスのいい音質になるということです。

近接+遠隔のミックスがこちら

さらに、ミキシングの際に残響効果(リバーブと言います)を程よく追加すると、広がりが増してさらに聴き心地のいい音になります。

ピアノパートの完成品がこちら

ちなみに、マイクの音(アナログ信号)をPCにデジタル録音するには、一般的にはオーディオインターフェイス(AI)という機器を使います。私が使っているAIは、4チャンネルのマイクを同時に処理できる仕様のものです(4chともファンタム電源対応)。STEINBERG UR44という機器で、Cubaseとの相性が良くあまり設定に気を使わなくていいこと、DAWの再生音と自分の演奏音を同時にヘッドフォンに返してくれるので、事前に作ったバックトラックに合わせてリアルタイムレコーディングが簡単に出来るのが長所です。

オーディオインターフェイス STEINBERG UR44。 コンパクトな機材だが4chのコンデンサマイク入力が可能で必要十分、使い勝手が良い。

そして近接の2本をステレオオーディオデータとして、1トラックに、遠隔の2本を同様にステレオデータとして記録しています。(4本をバラバラのモノラルデータとして記録することも可能ですが、ステレオ方式がこの後のミキシングの時に楽なので私はそうしています)

DAW上でのレコーディングトラック。上段が近接マイク、下段が遠隔マイクのオーディオデータ。

それぞれのマイク入力の音の大きさ(Input level)はオーディオインターフェースで調整します。これは重要で、あまり感度を上げすぎると音が大きくなった時にシステムが処理できる限界を超えてしまい、「バリッ」と割れた不快な音になってしまいます。一方であまり感度を下げすぎると、本来の音質・ダイナミクスが十分に記録できません。この画像のように音の大きさは波の大きさで視覚化されるのですが、曲の中で一番音が大きくなる瞬間も限界を突破しないくらいにInput levelを調整しておくのが理想的です。

今日はピアノのレコーディング環境についてご紹介でした。
今後も宅録での気づき、小ネタなどを時々アップしたいと思います。

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