さて、調律師さんと言えば、普段からとにかく様々なピアノに向き合っている方なので、楽器についての話題は事欠きません。いつも色々なお話を聞くのですが、今日はその一端をご紹介します。
現代のピアノという楽器は音域、音色、ダイナミクスの絶妙なバランスを体現している、非常に完成されたものだと思っていました。が、実は今も進化し続けているものなのだそうです。前回の記事で紹介した、より倍音を豊かにするアリコートという機構も、ここ40年くらいで主流になったもので、かつてのYAMAHAのベストセラーだったGシリーズには、ほとんど採用されていなかったそうです。
疋田さんがおっしゃるには、数十年間で、ピアノはとても良く鳴るようになったとのこと。特に世界のトップブランドであるスタンウェイは、すごく弾きやすく(極端に言えば)誰でもいい音が出せる楽器になったとのことです。一方で、それで良いことばかりかというとそうではなく、昔はある程度鳴らしにくい楽器をどう鳴らすかに演奏者の個性が現れた一面があり、少し寂しい気もするともおっしゃっていました。
グランドピアノの中でどんと鎮座している響板ですが、私はもちろん木製のものしか見たことがありませんが、最近はカーボンの響板を採用したグランドピアノがあるそうです。調べてみたら、Steingraeberというメーカーが確かに作っているようです!
https://www.steingraeber.de/en/innovationen/carbon-fibre-soundboard/
全身が木で出来ているグランドピアノは、一番の大敵が温度・湿度の変化。特に日本の季節変動は本来ピアノには過酷な条件なのですが、もし一番大きな部品である響板がカーボンで出来ていたら、相当品質の安定化が出来そうですね。
しかし、カーボンの響板、いったいどんな音がするのでしょうか?試奏動画などもし見つけた人がいたらシェアしてください!
なお、ピアノがリビングに置いてあるような素敵な家に誰でもあこがれてしまいますが、床暖房や暖炉のある部屋にピアノは決して置かないで下さいとのこと。そんな風景、見た目は良いですが、楽器は簡単に壊れてしまうそうです。
そしこのメーカーさん、ほかにも新しい試みをグランドピアノに導入しているようです。
この解説動画によると、このメーカーは、華麗に大音量がなる方向への進化とは真逆に、より繊細な音作りを追求しているとのこと。一つの試みがSordino Pedalという機構で、踏むととても薄いフェルトを弦とハンマーの間に差し込むことで、柔らかい音色へ変化させるというものです。
この仕組みは、実はアップライトピアノの弱音ペダルでは一般的なのですが、あえてそれをグランドピアノに応用して音作りに活かしているというのは驚きですね。
そしてもう一つが、その名もMozart Rail!
モーツァルトの時代から現代にいたるまで、鍵盤の深さは、5mmから10mm以上へと徐々に深くなり、その分ダイナミックな表現が出来るようになりました。一方でモーツァルト時代の均質な演奏はしづらくなっているというところに目をつけたのがこちら。
https://www.steingraeber.de/en/innovationen/mozart-rail/
鍵盤下に設置されたレバーを引くと、なんと鍵盤の深さが浅くなり、あえてダイナミクスを抑えた丁寧な演奏をしやすくするという仕組みなのです!
また、Fazioliという新進のピアノメーカーは、4番ペダルという機構を導入しています。
https://fazioli.co.jp/manufacture/index.html
通常、グランドピアノのソフトペダルは、ハンマー機構がガチャっと右ずれすることによって、普段3本叩いている弦を2本だけ鳴らすようにするという仕組みなのですが、このFacioliの4番ペダルは、なんとハンマーそのものを弦にすこし近づけることで打弦までの距離を短くし、音を純粋に小さくするというものだそうです。上記のMozart Railと発想は似ていますが、鍵盤とハンマー、いじっている場所は逆。それぞれのメーカーのあくなき探求が現在も続いているのですね。
曲は時代を超えて演奏され続けるわけですが、それを表現する楽器は大きく変わり続けており、たとえクラシック音楽であっても、時代ごとのアーティストがその時代にあった解釈・演奏を生み続けているのだということを再認識しました。
芸術は変わっていくからこそ、また面白いのですね。
お話を聞いて、楽器について考える良いきっかけを頂きました。
疋田さんありがとうございました!


