宅録研究通信 宅録環境パワーアップ編その3(最新ブラス音源 SWAM Brass ”Trumpet” “Trombone”)

COLUMN

今、私の宅録のメイン活動はサルサオルケスタの宅録!なのですが、その中でどれくらいのパートを「打ち込み」で聴かせることが出来るのか、というのが一つの実験テーマでもあります。
ヴォ-カルは当然のことながら生身の人間に歌ってもらうしかないとして(ボーカロイドを使ってというのも一つ面白い考えではありますが、今回やりたい方向とは違うので)、さて、次に打ち込みのハードルが高いのは何かというと圧倒的にホーンセクションなのであります。

しかし近年のDTMは飛躍的に進化していて、本来難しいとされる金管楽器・木管楽器や弦楽器のデジタル音源も一昔前とは比べ物にならないくらいリアルなものが登場してきています。
もちろん、デジタルが本物の人の演奏に限りなく近づけることを目標としている以上、それを「超える」ことはないわけで、やっぱり「本物」にはかなわないのは言うまでもありません。ミュージシャンを使わず音楽をローコストで制作することには制作側のメリットはあるけど、それが良いかどうかには賛否両論があるでしょう。
また、楽器を弾きこなすのに熟練が必要なのと同様で、打ち込みでバーチャルな楽器を使いこなすのにも色々なノウハウがあり、最終的には使用者のセンスが物を言います。完全な打ち込みで本物のフルオーケストラと思わせるような映画音楽を制作出来るエンジニアもいます。デジタル制作はそれはそれでとても奥が深いんですね。

で、今回私が導入した最新のおもちゃはAudio Modeling社による「SWAMシリーズ」というプラグイン音源のうち、トランペットとトロンボーンです。SWAMは”Synchronous Waves Acoustic Modeling”の略で、今まで主流となっていた「サンプリング」方式ではなく、「物理モデリング」によって楽器をデジタルに再現する技術のことです。
これだけ聞くと何言ってるかさっぱりわからないと思いますので、違いを簡単に説明します。

ホーンセクションの打ち込み、、、とても奥が深いです。

「サンプリング」とは、本物の楽器を実際に演奏して出した音を録音(サンプル収集)し、入力信号に反応して再生するというものです。本物の音を再生しているとは言え、フレーズとして音を繋げたときには、音を順番に再生するだけで実際の楽器の挙動は考慮されていないので、やはり不自然さが残ります。また、アコースティックな楽器は実に様々なアーティキュレーション(奏法)が存在します。トランペットでもスタッカートとレガートでは全く音色が違うし、息の吹き込み方、タンギングなどで非常にバリエーション豊かな音色が一つの楽器から発せられているわけですが、それらを細かくサンプリングするとデータ量が膨大となり、表現力を追求すればするほど打ち込みの難易度が上がっていくという側面があります。

SWAMシリーズの仕組みは「サンプリング」とは全く異なり、コンピュータープログラムとして楽器一台をまるまる物理的にシミュレーション(モデリング)するというものです。まさにバーチャルな楽器をソフトウェアとして開発し、それを「演奏」するという発想なのです。すごい時代になりましたね。
サンプル音源では一般的に一音一音に対するアーティキュレーションをキースイッチという切り替え信号を別に入力することでコントロール方法を取ります。例えばスタッカートのキー、レガートのキーなどを最初に定義しておき、それを音符と同時に入力してやることで演奏法を切り替えます。
一方、このSWAMシリーズでは、演奏(または打ち込みデータ)の音の強弱・長さ・次の音への繋げ方などから自動的にソフトウェアがアーティキュレーションを判断して勝手にそれらしく音を鳴らしてくれます。これは非常に画期的です。もしライブシーンでサンプル音源を使うとなると、奏者がフレーズと一緒にキースイッチを入力しながら演奏しなければならず、それは事実上不可能なのですが、SWAMシリーズは普通にキーボードでフレージングするだけで相当リアルな表現をしてくれます。

SWAMによる実演例がYoutubeに上がっていますのでいくつかご紹介します。

SWAM Trumpetの詳しい実演解説はこちらをご参考。
これ、すごい。完全打ち込みで生っぽさを極限まで追求。

ちなみに一つの音符を鳴らしている間の音量変化(管楽器での息の量とか、弦楽器の弓でこする強さなど)を操るために、MIDIに”Expression”というパラメーターがあります。SWAMシリーズ含め、最近のプラグイン音源はこのパラメータによるコントロールが秀逸で、表現力が非常に上がっています。演奏者の息でこれをコントロールするためのブレスコントローラーという装置を用いれば、ライブシーンでもかなり本格的な演奏になると思います。ただ、私のような打ち込みで鳴らす目的であればデータをPC上で書き込めるので、ブレスコントローラーは必須アイテムというわけではありません。

中央で波打っているように見えるのがExpressionのパラメータ。これで管楽器や弦楽器独特の音量変化を表現する。

さて、SWAMシリーズで私が作ったホーンセクションの一例をご紹介します。
鳴らしているのはトランペット2本+トロンボーン3本です。
比較のために他のサンプリング音源(Kontact Factory Library シリーズからTrumpet とTrombone)で同じ打ち込みデータを鳴らした例を先に掲載します。
本当はこちらの音源でも、音の強弱やアーティキュレーションを工夫するなどの改善は出来るのですが、今回はやってません。作り込んでいない分、比較するには不公平ではありますが、あくまでも音色比較の参考ということでご容赦ください。

Kontact Factory Library “Trumpet” & “Trombone”

そしてこちらがSWAM シリーズです。

SWAM Solo Brass “Trumpet” & “Trombone”

リアルさ、表現力が格段に上がっているのがお分かりいただけるかと思います。

ご参考までにSWAMシリーズTrumpetのインターフェースはこのようなウィンドウとなっています。

デフォルトとしていくつかのタイプの楽器が用意されています(Classical, Jazz, Latin etc. )。フラッター(巻き舌)奏法、グロウ(喉を震わせる)奏法などの特殊効果も演奏中に自由にコントロールすることが出来ます。また、チューニングを微妙に変えたり、演奏時のノイズの量や、ビブラートのかかり具合、ハーフピストンの有無などを自由に設定することが出来、さらにはミュートも様々なタイプのものが用意されています。様々なタイプのトランペッターをこのソフトウェア一本でシミュレーション出来るわけですね。
例えば実際のバンドでトランペッターが2人いれば、持っている楽器が異なり、演奏時のクセも微妙に違うはずで、そのようなところまでこのソフトウェア1つでシミュレート出来るというのは今までにない発想です。

進化するデジタル奏者をどう飼いならすか、今後も試行錯誤していきたいと思います。
Audio Modeling社の公式サイトはこちら。
https://audiomodeling.com/

話は変わりますが、上記のデモンストレーション、何の曲かピンときた方、きっといらっしゃると思います。
はい、松田聖子さんの、あの曲です。Los Quienesというサルサバンドのレパートリーを宅録で再構築する試みをやっていまして、最初の一曲がこちらです。もうじき全体を皆さんにお聞きいただける予定ですのでお楽しみに!今日はここまで。

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